デジタルアーカイブに最適な3Dスキャナーとソフトウェアの選定方法
- 株式会社Seed3D
- 3月17日
- 読了時間: 12分
更新日:4月7日

デジタル技術の進歩により、美術品や文化財をデータ化して保存する「デジタルアーカイブ」が注目されています。デジタルアーカイブとは、博物館の収蔵品や歴史資料などの形状や情報をデジタルデータとして記録・保存し、必要に応じて活用できるしくみのことです。
特に3Dスキャナーを使ったデジタルアーカイブでは、立体物の細部まで忠実に記録できるため、貴重な資料を非接触で保存できるメリットがあります。
これにより、現物に触れることなく詳細な観察や計測が可能となり、資料の劣化や破損を防ぎつつデータを後世に残すことができます。本記事では、3Dスキャナーを活用したデジタルアーカイブの作成方法について、基本的な流れや具体的な手順、成功のポイント、そして活用事例をわかりやすく解説します。
3Dスキャナーを使ったデジタルアーカイブの流れ
3Dスキャナーを用いたデジタルアーカイブは、大きく「機材・ソフトの準備」「スキャン(撮影)」「データ処理」「公開」のステップに分けられます。以下では、それぞれの段階で必要なものや手順について詳しく見ていきましょう。
必要な機材やソフトウェア
デジタルアーカイブを始めるには、まず適切な機材とソフトウェアの準備が重要です。基本となる機材は対象物の形状を読み取る3Dスキャナーです。一口に3Dスキャナーと言っても、方式には対象に触れて測定する「接触式」と、光やレーザーで非接触に測定する「非接触式」があります。文化財や美術品のように傷つけたくない対象には、対象物に触れずに計測できる非接触式が適しています。非接触式にも、構造化光(白色や青色LED)を投影するタイプや、レーザー光を当てるタイプ、さらには写真から3Dモデルを合成するフォトグラメトリなど複数の方式があります。精巧なデジタルアーカイブには高精度でカラーテクスチャ対応の3Dスキャナーが望ましいでしょう。
近年の高性能スキャナーでは、青色レーザー光源やVCSELを用いることで光沢のある金属面や黒い物体でも粉末スプレー不要でスキャンでき、0.1mm未満の精度で細部まで取得可能なモデルも登場しています。
土器や化石などでは表面の色や風合いも保存状態の手がかりとなるため、こうしたテクスチャ情報の取得も不可欠です。寸法再現性よりカラー解像度を優先したいケースでは高解像度カメラを使ってフォトグラメトリソフトで3Dデータ化をすることも可能です。ただし、フォトグラメトリで質の高いデータを手に入れるためにはテクニックと高価格な高性能カメラで撮る必要があるので注意しましょう。
デジタルアーカイブにおすすめの機材やソフトウェア
低価格に形状の再現性を撮りたいならこれ!
Matter and Form THREE

Matter and Form THREEは高解像度での3Dスキャンを得意としており、ディティールの再現性が必要な方におすすめ。フルカラースキャンにも対応しているが、カラー再現性は少し低め。
メリット
低価格から始められる本格派3Dスキャナー
高解像度で撮ることができ、細かな傷やディティールの再現性が非常に高い。
APIを公開しているのでオリジナルのスキャンシステムを作成することも可能
デメリット
サイズの大きなものを撮るのに時間がかかる
カラー再現性がやや劣る
高いフルカラー性能低価格ハンディスキャンならこれ!
EinStar Vega
EinStar Vegaは低価格帯ながらも小型大型どちらもスキャンできる機種です。ワイヤレスタイプなので外でもデータ化ができるといった強みがあります。ただ、どちらにも特化していないというメリットでありデメリットのような側面もあります。
メリット
低価格帯のハンディ3Dスキャナー。ワイヤレスで野外でも使える
小さいサイズも大きいサイズもスキャンできる
フルカラースキャンのカラー性能が髙め
デメリット
トラッキング性能がやや低め。物によってはスキャンが難しいものも
小さいディティールの再現性がMatter and Form THREEより劣る。
最高性能ハンディスキャン!業務用途での使用ならこれ!
EinScan Libre

業務用途で3Dスキャンを想定している人にはおすすめの機種。高価格ではあるものの3Dスキャナーでのデジタルアーカイブでやりたいことはだいたい達成できる機種
メリット
ワイヤレスで野外でも使える
小さいサイズも大きいサイズも高レベルでスキャンできる
フルカラースキャンのカラー性能が髙め
デメリット
価格が高い(約500万円前後)
無料で質の高いデータが欲しい!フォトグラメトリソフト
Reality Capture

EpicGamesが提供するフォトグラメトリソフト。企業の年間収益が100万米ドル未満の場合、RealityCaptureは無料で使うことができ、学生、教育者でも無料で使用できるソフト
メリット
スマホやカメラがあればクオリティの高いデータが作れる
ドローンなどと組み合わせれば遺跡などを撮ることもできる。
カラー再現性がカメラに依存するのできれいなデータの作成に上限がない
無料から始められる
デメリット
物体1個当たり数百枚の写真が必要なため、データ化に時間がかかる
重なりを意識したりなど撮影テクニックが必要
良いデータを撮ろうとするといいパソコンとカメラが必要になり高額になりうる
データの処理と最適化
スキャンが完了すると、点の集まりである点群データやポリゴンメッシュデータが得られます。しかし、生の計測データはノイズ(誤点)や欠損が含まれることも多いため、専用ソフトでの後処理(ポストプロセス)が必要です。まず、明らかに余計な点(背景を誤って取得した点群など)を削除し、各方向からのスキャンデータを一つの座標系に統合します。統合にはスキャナー付属ソフトの自動位置合わせ機能を使うか、共通の特徴点を手動で合わせて調整します。統合後は点群をもとにポリゴンモデルを生成し、穴埋め(穴になって計測できなかった箇所の補完)や平滑化(表面の滑らか化)処理を行います。必要に応じて数百万ポリゴンに及ぶ高精細モデルから、適切な解像度にデータ量を圧縮した軽量モデルを作成しておくと良いでしょう。
完成した3Dデータは、用途に応じたフォーマットで保存します。一般的には汎用性の高い**OBJ形式(形状+テクスチャ)や、サイズが比較的小さいSTL形式(形状のみ)などが使われます。オリジナルの高精細データに加え、Web公開用に軽量化したデータなどバリエーションを用意しておくと便利です。また、データにはメタデータ(付帯情報)を付けて管理します。例えば、資料名・所在地、スキャン日、担当者、使用機材、測定精度、加工履歴といった情報を記録しておくと、後から研究利用する際にも信頼性が担保されます。こうして出来上がったデジタルデータはデジタルアーカイブとして登録し、関係者で共有したりバックアップを取ったりして保管します。
データの処理に最適!無料の修正ソフトウェア
無料CGソフトの定番!まず始めるならこのソフトから!
Blender

Blenderは3DCGソフトウェア無料ながらも高価格帯CGソフトウェアに比べても劣らない性能
メリット
使用者が多いので情報にアクセスしやすい。
アドオンなども豊富。
無料で始められる
デメリット
機能が多すぎるので学ぶのに根気がいることも。デジタルアーカイブに必要ない機能も多い。
無料CGソフト!メッシュ編集特化で使いやすい!
Meshmixer

Meshmixerは無料で使えるメッシュ編集ソフトです。Blenderほど機能は多くありませんが、修正に必要な機能は搭載しており、メッシュの状態なども見ることができます。
メリット
専門的な知識がなくても簡単な修正ができる。
無料で始められる
デメリット
Blenderに比べると機能は少ない。
オンライン上でのデータの公開
最終的な3Dスキャンしたデータの公開にはSketchfabを使用しているケースがほとんどです。データをアップして公開したらEmbedボタンから発行されるコードをそのままコピー&ペーストでウェブサイト管理画面のHTMLコードを入力する場所に張り付けるだけで作成できるので初心者でも簡単に行えます。自社で構築することも可能ではありますが、開発コストも高額になるため、外部に公開するのは既存プラットフォームを使った方が良いでしょう。
簡単アップロード!WEBに3Dデータを載せたいならこれ
Sketchfab
成功するためのポイントと注意点
最後に、3Dスキャナーを活用したデジタルアーカイブを成功させるためのコツや注意すべきポイントを確認しましょう。精密なデータを取得するテクニックと、得られたデータを安全に管理する方法の両面から解説します。
精度を高めるコツ
デジタルアーカイブの価値は、なんといっても取得データの正確さと完全さにあります。精度を高めるためには、まずスキャン前の準備を怠らないことが重要です。対象物の汚れを落とし、しっかり固定することでブレやノイズを低減できます。スキャナー本体もキャリブレーションを行い、メーカー推奨の手順でウォーミングアップしておきましょう。
スキャン中は「丁寧さ」と「重複のなさ」を意識します。ゆっくりムラなく計測し、陰影になりやすい箇所(例えば彫刻の下側や窪み部分)も角度を工夫して漏れなくデータ化します。どうしても取得が難しい場合は、無理せず向きを変えて複数回に分けてスキャンし、後で統合する方法を取ります。複数の断片データを合わせる際は、**十分なオーバーラップ(重なり部分)**を確保しておくと精度良く位置合わせできます。
また、スキャン品質に影響する要素として表面の反射や透明性があります。光沢の強い金属面やガラス・宝石類などは、そのままだと光が乱反射して正確に形状を取得できません。この場合、洗い落とせる反射防止スプレーを吹き付けてマットな表面にしてから計測する手もあります。ただし資料を汚せない場合も多いため、可能であれば反射や黒色にも強いスキャナーを選定することが望ましいでしょう。
幸い近年の高性能モデルはこの点が大きく改善されており、光沢物でも追加処理なしで計測できるものが増えています。
撮影枚数や解像度も精度に直結します。高解像度モードで丹念にスキャンすれば細部まで記録できますが、その分データ量が増大します。プロジェクトの目的に応じて必要十分な解像度を見極め、解像度とデータ容量のバランスを取ることも大切です。迷った場合は最高精度で保存版データを取得し、別途コピーを加工して利用用途に合わせて簡略化する方法が安全策として勧められます。
データ管理・保存のポイント
苦労して取得した3Dデータも、適切に管理・保存しなければ宝の持ち腐れになってしまいます。データ管理ではまずバックアップの徹底が基本です。ハードディスク故障など万一に備え、別媒体やクラウドにコピーを保管します。可能なら地理的に離れた場所にもバックアップを置き、災害リスクに備えると安心です。
ファイル形式は汎用フォーマットで保存し、将来にわたって読み込み可能な状態を維持します。特定メーカーの独自形式しか残っていないと、数十年後にはソフトが入手できず開けない…という事態も起こりえます。標準的なOBJやPLY形式の他、将来的な変換に備えて元のスキャン生データ(点群やボクセルデータ)も一緒に保管しておくと安心です。
データにはメタデータを付与して文脈情報と一緒に保存します。
前述のように、どの資料をいつどのようにスキャンしたか、権利関係や公開レベル(社内限定か一般公開可か)なども記録しておきます。後から第三者が利用する際、この情報があるだけで信頼性が大きく向上しますし、研究用途で引用する場合も正式なデータ出典を示すことができます。博物館などでは館内の収蔵品管理システムと紐づけて、3Dデータにも同じ管理番号を振るなどの運用が有効です。
最後にオリジナルデータの保全にも注意します。加工や変換を重ねると元の生データから乖離してしまうことがありますので、マスターデータは書き換えず別コピーで編集作業を行います。また、将来さらに高精度な技術が登場した際に再計測する可能性も視野に入れ、現在のデータと新旧比較できるよう履歴を管理しておくと良いでしょう。
デジタルアーカイブの活用事例
デジタル化した3Dデータは、保存するだけでなく様々な形で活用できます。ここでは博物館や研究機関での具体的な活用事例を紹介します。
博物館での活用
デジタル化した文化財データを活用して、鑑賞や教育の新しい形も実現しています。例えば
*東京国立博物館とNHKのプロジェクトでは、重要文化財を3Dスキャンやフォトグラメトリでデータ化し、8K解像度で細部まで鑑賞できるコンテンツを制作しました。
これにより、通常の展示では見られない角度からも文化財を観察でき、来館者に新たな発見を提供しています。さらに、3Dデータをオンラインで公開すれば、遠方にいて直接来館できない人でもインターネット越しに閲覧・学習できます。米スミソニアン博物館では収蔵品の3Dモデル約1700点を一般公開し、誰でもダウンロードできるようにするなど、デジタルミュージアム化の取り組みが世界的に進んでいます。このようにデジタルアーカイブは、文化財の保全と活用を両立する博物館運営の鍵となりつつあります。
また、愛知県陶磁美術館では、EinScan Pro 2Xを活用し、対象物を非接触で高精細に3Dスキャンしました。得られた3DデータはGoogle PolyでQRコードに変換され、スマートフォンであらゆる角度から閲覧可能となっています。この技術により、文化財の精密なデジタルアーカイブと保全が実現され、展示方法に新たな価値が創出されています。


まとめ
3Dスキャナーを活用したデジタルアーカイブは、文化財や貴重資料の保存と活用に革命をもたらしています。非接触で高精細な記録を残せるため、資料を傷めることなく永続的な保存が可能になりました。デジタルデータ化により現物へのアクセスを減らして劣化を防ぎつつ、複製品の展示やオンライン公開によって誰もが資料に触れられる機会を増やせます。
博物館ではバーチャル展示やVR/AR体験、研究機関ではデータ共有と解析の高度化など、その効果は計り知れません。
今後ますます3Dスキャン技術が発展し、小型軽量で扱いやすい機種やスマートフォン搭載のLiDARによる手軽な計測も普及するでしょう。デジタルアーカイブの取り組みは、日本のみならず世界中で広がりつつあります。私たちも最新の技術と正確な手法を取り入れながら、貴重な文化遺産をデジタルの形で未来に受け渡していきたいものです。その蓄積が次世代の研究や創造の礎となり、歴史と文化を未来へとつなぐ架け橋となることでしょう。