【2025年版】低コストで金属・セラミックス造形を実現するFFF/MEX方式金属3Dプリントとは?造形から脱脂・焼結まで実際に試したプロが解説。
- 大橋竜也

- 9月24日
- 読了時間: 20分

FFF/MEX方式金属3Dプリントとは?なぜ注目されるのか
金属FFF/MEX方式とは、金属粉末を樹脂バインダーと混合したフィラメントを使い、通常の樹脂3Dプリンターと同様に熱で溶融・積層造形する方式です。造形後にバインダーを除去(脱脂)し、残った金属粉末を高温炉で焼結することで、実質的に純粋な金属部品を得られます。の手法は従来の粉末床溶融(PBF)方式などに比べて装置コストが低い点で注目されています。また金属粉末を使わずフィラメント状で扱うため粉塵爆発等のリスクも小さく、安全性が高いとされています。こうした理由から、従来の金属3Dプリンターと比べると安価かつ手軽に金属造形を始められる技術として、製造業で導入検討が進んでいます。
詳しいプロセスと関連技術
金属FFF/MEX方式は、以下の3つの主要なステップで構成されています。この一連の流れは、金属粉末射出成形(MIM)の技術を応用したものです。
造形(MEX/FFF): 樹脂と金属粉末が混ざったフィラメントを熱で溶かし、積層して造形します。この段階の部品は「グリーンパーツ」と呼ばれ、まだ強度がありません。
脱脂(Debinding): グリーンパーツからバインダー(樹脂成分)を除去します。脱脂方法には、加熱によってバインダーを蒸発させる熱脱脂、有機溶剤に浸す溶媒脱脂、強酸性ガスで化学分解させる触媒脱脂の3種類があり、それぞれ材料や設備に応じて使い分けられます。この段階の部品は「ブラウンパーツ」と呼ばれ、まだ脆いです。
焼結(Sintering): ブラウンパーツを融点直下の高温(通常1200〜1400℃)で加熱し、金属粉末同士を結合させます。この工程で部品は収縮し、最終的な密度と強度を得ます。焼結後の部品は、積層方向による強度の違いがほとんどない、均質な金属組織となります。

セラミックスの場合も同様でセラミックス射出成型(CIM)の技術を応用しております。セラミックスの場合は脱脂工程は脱バイと呼ばれることが多い印象で、熱脱脂による処理が一般的です。
いずれの焼結の際でも約20%程度収縮するため、造形時にその収縮を見越して寸法を大きめにスライスする必要があります。
3Dプリンターユーザーがまず疑問に思うのは「サポートはどうするのか?」という点です。基本的な前提として、サポートはなるべく不要になるように設計することが望ましいです。しかし、どうしてもサポートが必要な場合には、以下のような対応方法があります。
金属の場合 焼結後は同一材同士が完全に一体化してしまうため、サポートと本体を分離することが困難です。そのため実際には、陶器のように壊れやすいセラミックス材をサポートとして金属部品の間に挟み込みます。焼結完了後にハンマーなどで叩くことで、金属部品とセラミックスサポートを分離できます。
セラミックスの場合 金属のように決まったやり方は確立されていません。一般的には造形時にサポートを付け、脱脂後で脆くなった段階で取り外し、その後に焼結を行う方法だったり、。樹脂等のサポート材をつけて脱脂や焼結時に除去などもあります。ただし、焼結時に対象物のクラックや破損、発生するガスの量など炉に与えるリスクがあるため、やはりサポートを前提とした設計は避けるのが無難です。機械加工ができる場合は焼結まで同一サポートで行いサポートの除去を行います。この辺りはフィラメントメーカー依存となり特に定まった方法はありません。

使用可能な代表的な材料
金属

金属は周期表における典型元素・遷移元素を中心とした材料群で、高い電気伝導性・熱伝導性・延性や展性といった特性を持つのが特徴です。
焼結工程では真空・不活性ガス・還元ガスなどの制御が必要になりますが、それによって最終的に高強度で耐久性のある金属部品が得られます。FFF/MEX方式で作成されたパーツの治具や試作から最終部品までの適用が進んでいます。
ステンレス鋼(SUS) 金属FFF/MEX方式で最も広く利用されている材料がステンレス鋼です。代表的には316L、析出硬化系の17-4PH(SUS630)が挙げられます。316Lは耐食性に優れ、医療機器や化学プラント部品などに適しています。一方17-4PHは熱処理により高い強度と硬度を発揮できるため、産業機械や航空機関連の部品に使用されています。
工具鋼(SDK) H13(SDK61)、A2(SKD12)、D2(SKD11)といった代表的な工具鋼もFFF方式で利用可能です。これらは高温下でも強度を維持できるため、射出成形金型や耐摩耗性が要求される治具などに適しています。
銅 純銅フィラメントも販売されており、特に高い熱伝導率や電気伝導性を活かした用途に有効です。例えばヒートシンクや電極部品、放熱が求められる自動車・家電部品などに活用できます。3Dプリンターで作ることでジャイロイドといった表面積が大きくなるような形状が作成でき、放熱性を高めることができます。
セラミックス

セラミックスは「金属でもプラスチック(有機材料)でもない」非金属の無機質固体材料を指します。とても幅広い材料群で、金属元素と非金属元素の組み合わせによる無機化合物も含まれます。
3Dプリンター用の材料としては、従来のFFF方式だけでなく、光造形方式でも利用できるものが登場しています。
金属材料と違って酸化などの心配が少ないため、金属の焼結工程で必要な真空引きや雰囲気ガスを使わずに造形できるケースが多く、比較的低コストで導入しやすいのが特徴です。
さらに、セラミックスには高温耐性や耐食性で金属を上回るものもあります。需要そのものは金属ほど大きくありませんが、樹脂や金属では対応できない分野での独自の用途・活躍が期待されています。
アルミナ(Al₂O₃)アルミナは優れた耐熱性(使用温度 1600〜1700℃)、高い硬度(ビッカース硬度約 1500HV)、優れた電気絶縁性を兼ね備えた代表的なセラミックです。電気絶縁部品、耐摩耗部材、耐腐食部材として広く利用され、特に高温環境下でも性能を維持できるため、電気電子や化学装置分野で注目されています。
ジルコニア(ZrO₂)ジルコニアはアルミナに比べて靭性が高く、割れにくい性質が特長です。耐熱性は約 1000〜1200℃ 程度で、熱衝撃耐性に優れます。また耐摩耗性・耐腐食性も高く、人工歯やインプラントなどの医療用途、耐久性が求められる精密部品に適しています。焼結後に高密度かつ実用的なセラミック部品が得られます。
脱脂工程の種類と比較:熱脱脂・溶媒脱脂・触媒脱脂
金属FFFで造形したグリーンパーツからバインダー(樹脂成分)を除去する脱脂工程には、大きく分けて次の3種類の方法があります。それぞれメリット・デメリットが異なるため、材料や部品形状に応じた選択・工夫が重要です。
熱脱脂(Thermal Debinding):加熱によってバインダーを熱分解・蒸発させる方法です。最もシンプルな手段であり、焼結炉内で温度を徐々に上げることで同時に脱脂を行います。メリットは特別な薬品を使わずその後の熱処理と一体工程で処理できる手軽さで、溶剤を使用しないため小規模な炉でも対応しやすい点です。デメリットは急速に熱脱脂を行おうとすると発生するガスなどで内圧が高まり、クラック等の原因になることから、脱脂に時間がかかり、大きな部品では内部からガスが抜けにくく歪みや破裂のリスクが高まることです。分厚いグリーンパーツだと表面が先に焼締まって内部ガスが逃げにくくなる問題もあります。
溶媒脱脂(Solvent Debinding):バインダーの一部を有機溶剤や水に溶かして除去する方法です。グリーンパーツを溶剤槽に浸漬したり、溶剤蒸気に晒すことで、樹脂成分のうち溶解しやすい成分(ワックスなど)を先に洗い出します。メリットは脱脂にかかる時間を短縮でき、大型部品でも内部まで溶剤が浸透することで比較的均一にバインダーを抜ける点です。
触媒脱脂(Catalytic Debinding):強い酸化性ガス(典型例は濃硝酸の蒸気)を用いてバインダーを化学分解・昇華させる方法です。これはBASF社がMIM向けに確立した手法で、ポリアセタール(POM)系バインダーに硝酸ガスを作用させると、急速に分解が進みホルムアルデヒドに分解される原理が利用されています。濃硝酸は反応として作用するのではなく、あくまでPOMの分解を促進する触媒として濃硝酸が作用する役割なので触媒脱脂といわれています。通常は濃硝酸を使いますが、シュウ酸でも可能です。
以上のように、脱脂工程は方式ごとに一長一短があります。いずれの場合も「短時間でできるだけ完全にバインダーを分解・除去し、かつ部品形状を、破損歪ませない」ことが理想となります。
脱脂方式 | メリット | デメリット | 代表的な対応フィラメント例・備考 |
熱脱脂(Thermal Debinding) | ・薬品を使わず安全性が高い・設備が比較シンプルで、焼結炉で一体処理可能・運用コストが低め | ・時間がかかり、そのまま焼結工程に行くケースでは失敗した場合の時間損失がかなり大きい。 | CeraFila SUS316L / SUS630、Desktop Metal |
溶媒脱脂(Solvent Debinding) | ・パーツを溶媒につけるだけなので設備は比較的簡易 ・時間も比較的かからず、溶液につけることから自重によるブラウンパーツの破損も少ない。 | ・有機溶剤・化学薬品を使用するため、安全対策・廃液処理が必要 ・溶剤浸透が難しい形状(内部空間が狭い、肉厚・複雑形状)では処理が遅くなることも | Zetamix Markforged MetalX |
触媒脱脂(Catalytic Debinding) | ・パーツ、使用する触媒にもよるが脱脂が速く進む。 ・厚肉部でも比較的均一な脱脂が可能。 ・蒸気で行うため複数パーツの脱脂を同時に行いやすい | ・強酸性ガスを使用し、ホルムアルデヒドが発生することから、設備・安全管理が大きなハードル ・対応可能な材料が限定される(酸に耐性のある金属系など) ・設備コスト・運用コストが高め | Ultrafuse 316L / 17-4PH |
焼結工程について
脱脂を終えた部品(ブラウンパーツ)は、まだ金属粉末が樹脂の抜けた空隙を残した状態で、強度も脆く実用に耐えません。ここで行われるのが焼結です。
焼結とは、金属・セラミックス粉末をその融点直下の高温(通常は 1200〜1500℃ 前後、材料によってはさらに高温)に加熱し、粉末同士を拡散結合させて緻密な組織を形成する工程です。これにより部品の密度が向上し、強度・硬度・耐食性といった最終的な機械的特性が得られます。
収縮補正が必要:焼結中に15〜20%前後の線収縮が起きるため、造形データは事前にスケールアップして設計します。各メーカーは専用ソフトや補正係数を提供しているのでその値にモデルを拡大すると設計データと近しい寸法で出力できます。MarkforgedのMetalXなどではスライサーで自動的にそのサイズに調整してくれます。
雰囲気制御が重要:金属の場合は酸化や炭化を防ぐため、アルゴンや窒素+水素などの保護ガス雰囲気が用いられます。また、炉内の酸素を抜くため、真空引きなどの工程も必要になります。不適切な条件だと残留炭素による脆化や割れが発生する可能性があります。セラミックスの場合はガスや真空引きは不要なケースが多いので比較的簡易的な炉でも条件を満たせば運用できるケースもあります。
等方的な性質を獲得:FFFやMEXは積層造形であるにもかかわらず、焼結後は金属粉末が拡散結合するため、樹脂造形品のような積層方向依存性はほとんどなく、ほぼ等方的な機械特性を発揮します。
バインダー除去の最終段階:熱脱脂・溶媒脱脂・触媒脱脂のいずれでも、必ず少量の残留バインダーが残ります。焼結工程ではこの残存バインダーを熱分解し、完全に除去する役割も果たします。
焼結は金属FFF/MEX方式における「最終仕上げ」かつ「品質を決定づける核心工程」であり、脱脂と並んで最も重要なプロセスといえます。
代表的なフィラメントとメーカー
金属FFF/MEX方式の普及に伴い、各社から様々なフィラメント製品およびシステムが発売されています。代表的なメーカーと製品をいくつか紹介します。
Forward AM(Ultrafuseシリーズ) –Forward AM社は、「Ultrafuse 316L」「Ultrafuse 17-4PH」などステンレス鋼フィラメントを開発しています。一般的なデスクトップFFFプリンターで造形可能。造形後の脱脂と焼結を経て、高い強度・硬度を持つステンレス部品が得られます。バインダーにPOMを使用しており、脱脂の際には濃硝酸またはシュウ酸を使用した触媒脱脂を行います。通常の造形自体は簡単にでき、低価格帯のプリンターでも問題なく造形はできます。一方で、脱脂焼結までのプロセスがうまくいくための造形設定値の作成は少々手間がかかります。理由は脱脂後のブラウンパーツが他の金属系フィラメントと比べても脆く、反りや層間接着が甘いとそこから自重などで崩れやすくなります。ガラスプレートにUltrafuse Metal用ののりを塗って吐出量(流量)を高めに設定し、反りなくパスによる空孔を少なく造形をするやり方がメーカーから推奨されています。脱脂・焼結は少々大規模になるものの、脱脂にかかる時間が短く複数部品を同時に脱脂焼結しやすいことから、部品の量産には最適です。
Nanoe (Zetamixシリーズ) – フランスのNanoe社は2018年に世界初のセラミックおよび金属フィラメントブランド「Zetamix」としてスタートしました。Zetamixではアルミナやジルコニアなどセラミックス系を主として扱っており、アセトンによる溶媒脱脂で使用できるため、溶剤の購入のしやすさや設備の簡易さがメリットです。ただ一方でフィラメントが他のフィラメントと比べると圧倒的に折れやすいので上から吊るすようにフィラメントを固定してなるべくテンションがかからないように造形する必要があります。この折れやすさから造形難易度は他よりやや高めです。一方で、脱脂、焼結の安定性は比較的高めで、メーカー推奨の炉も簡易的で安価なチューブ炉が採用されています。また、セラミックス系の脱脂(脱バイ)は熱脱脂が主流で全体のプロセスを見ると2~3週間ほどかかってしまうことが多いのですが、このプロセスでは脱脂時間を大幅に削減ができるので、トータルで1週間程度でセラミックスパーツの作成が可能です。
Markforged (Metal Xシステム) – Markforged社は、デスクトップ型金属FFFシステム「Metal X」をいち早く市場投入したパイオニアです。樹脂とワックスで固められた金属フィラメントを用いて造形をします。造形機、脱脂炉、焼結炉までセットで販売しています。溶剤はOpteon™ SF79という溶剤を使用し、溶媒脱脂で行うことができます。ソフトウェア(Eiger)による自動収縮補正機能や専用の脱脂、焼結、造形テンプレート値が備えられているため、特に詳しい知識がなくても、指示に従って焼結までを行えばパーツが作成できるという専用システムならではの強みがあり、失敗も少ないです。デメリットとしては細かい設定の変更ができなく、ブラックボックス化されているため、研究用途や金属密度をより高めれるよう詰めたいというような方には不向きなモデルとなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 金属FFF/MEX方式で作った部品は本当に金属ですか?
A. はい。造形直後は樹脂を含んだ「グリーンパーツ」ですが、脱脂・焼結工程を経ることで純粋な金属組織になります。最終的な部品は切削加工材やMIM製品に近い特性を持ちます。
Q2. 強度は従来の金属加工に比べて劣りますか?
A. 焼結後の相対密度が95〜97%前後まで出るというデータや理論上99.7%とのデータもありますが、実際の運用上での数値はそこから数パーセント劣ったり、ばらつきのある印象はあります。理由は3Dプリンターの工法による原因が1つとして考えられ、ノズルに付着したごみなどの混入や、吐出量を上げたことによるノズル先端のダマの付着、パスによる空孔の発生などが理由として考えられます。専用機はこの辺も工夫されているので比較的安定した密度での作成ができる傾向があります。
Q3. 脱脂と焼結は必ず専用の脱脂焼結炉が必要ですか?
A. 小型部品なら市販の管状炉や真空炉でも対応可能ですが、均一な品質や再現性を確保するには専用やメーカー推奨の脱脂炉・焼結炉を備えたシステムが望ましいです。市販の炉を使用するガスなどに炉が耐性があるかや、発生するガスの種類、発生量などを把握し、専門家や炉のメーカーに確認することをお勧めします。
Q4. 寸法精度はどの程度ですか?
A. 焼結時に15〜20%程度の収縮が生じるため、スライスソフトやメーカー提供の補正係数でスケールアップして造形します。適切に補正すれば±0.2〜0.5 mm程度の精度が得られますが、トライアンドエラーは必須です。
Q5. セラミック材料のメリットは?
A. 金属では得られない高い耐熱性や絶縁性を持ちます。例えばアルミナは1600℃を超える高温でも安定、ジルコニアは高靭性で割れにくさがあります。FFF方式で少量試作できる点は大きな利点です。
Q6. コストメリットはどのくらいありますか?
A. レーザー方式の金属3Dプリンタが数千万後半円規模であるのに対し、金属・セラミックスFFFプリンタは数百万円~数千万前半から導入可能です。フィラメント形状のため安全で扱いやすく、粉末を扱う方式ではワイヤーカット等の後処理が必要ですが、この方式では不要なことも多く、時間と人材コストを抑えられます。
Q7. 安全面のリスクはありますか?
A. 粉末を直接扱わないため粉塵爆発や健康リスクは小さく、安全性が高いとされています。ただし、脱脂や焼結時には可燃性ガスや有機溶剤、酸化防止ガスを使用するため、要件に沿った設備の安全対策は必要です。
Q8. 個人での金属、セラミックス3Dプリントは可能ですか?
A. 個人で3Dプリントまでであれば低価格帯の3Dプリンターでも難なく可能ですが、脱脂焼結まではさすがに厳しいと思います。特に金属に関しては単に炉の購入だけではなく溶剤や雰囲気ガス(アルゴンガスや窒素など)が必要となるので現実的ではありません。セラミックスに関しては小規模な炉でもでき、雰囲気ガスの購入も不要なケースが多いので、電源関連(200V必要なケースも)、脱脂時の排気の成分などに気を付け、場所を確保できるようなもの好きの方であれば、、、
金属・セラミックスFFF/MEXは使えるのか?
金属・セラミックスFFF/MEX方式の応用範囲は広く、様々な分野で検討が進んでいます。一方でこの方式に対し、「精度が出ないから使えない」、「金属の密度が足りないから使えない」という方も現在では多く見かけます。
しかし実際には、従来工法と比べて必ずしも競合関係にあるのではなく、試作・少量生産・教育・研究開発の分野で従来方式を補完する技術として有効性を示しています。例えば、金属の耐性、耐熱性が必要な消耗パーツ、研究機関における新材料の評価試験片、教育分野での金属・セラミックス造形の教材などは、必ずしも100%の緻密性やサブミクロンの寸法精度を要求するものではありません。むしろ短期間で、低コストで、かつ安全に造形できるというFFF/MEX方式の特徴が大きな価値を持ちます。
10年前の樹脂3Dプリンターと同じ状況
思い返せば、10年ほど前に低価格帯の樹脂3Dプリンターが登場した当初も、「精度が出ないから実用にはならない」と多くの人が指摘していました。ところがその後、材料や造形技術、ソフトウェアの進化に加え、ユーザーによる多様なアプリケーションの発見によって、現在では試作現場や量産の一部にまで浸透しています。金属・セラミックスFFF/MEX方式も同じ発展曲線を描いており、今は黎明期特有の課題が目立っている段階にすぎません。そして、当時から3Dプリンターに取り組んでいた企業や研究者が技術を先取りすることで事業上の優位性を確立しているように、普及が進んでから導入を始めてもスタート地点は大きく異なることを理解しておく必要があります。つまり、いまこそこの技術への投資を検討し、将来の競争力を確保する絶好のタイミングといえるのです。
金属・セラミックスFFF/MEX 3Dプリンターが活用できる場所
消耗パーツ
最も実用的な活用分野のひとつが、消耗・摩耗パーツの内製化です。多くの企業では、ローラー・ガイド・スペーサー・ノズルといった部品を外注調達しており、特にカスタムパーツなどで海外メーカーから取り寄せる必要がある場合には納期の長期化や為替リスク、最低発注数量の制約などが課題になります。FFF/MEX方式であれば必要な時に必要な数量を内製でき、在庫削減・納期短縮・コスト低減を同時に実現可能です。さらに用途や工程ごとに形状や寸法を少しずつカスタマイズできるため、改善要求にも迅速に対応できます。
写真の例では、ガスクロマトグラフ装置の高温絶縁コネクタが破損し、機器が停止するトラブルが発生しました。市販品では代替が難しい中、Zetamixアルミナフィラメントを用いて部品を3Dプリントし、脱脂・焼結までをわずか1週間で完了。高温下での絶縁性と耐薬品性を兼ね備えた部品として復元され、装置は迅速に復旧しました。


耐熱・耐薬品治具
熱処理工程や塗装ライン、薬品を使う実験・製造プロセスでは、高温・腐食環境に耐える治具が求められます。従来は高価なステンレス鋼や耐熱合金、セラミックスを加工して調達する必要がありましたが、FFF/MEX方式を活用すれば数百℃の耐熱性を持つ治具や、薬品に侵されにくいセラミック製治具を安価に内製できます。特に「少数ロットで必要な特殊治具」を短納期で作れる点は現場改善に直結します。
写真は摩耗やメンテナンスに課題のある従来のダイナミックミキサーに代わり、Zetamixアルミナフィラメントでスタティックミキサーの部品を3Dプリントした時の例です。
この部品は既存配管に容易に組み込み可能で、液体セメントを均一に混合し期待通りの性能を発揮しました。
テストの結果、摩耗性・腐食性流体に対応する高耐久なスタティックミキサーの新たな製造手法となりました。


3Dプリンターならではの形状を活用
金属・セラミックスFFF/MEX方式の最大の強みの一つが、従来工法では不可能だった複雑形状を造形できることです。例えば、銅フィラメントによる冷却フィン付きヒートシンクや内部冷却チャネルを備えた金型インサートなどは、切削加工では実現が困難ですが、FFF/MEXなら容易に試作できます。これにより、熱効率の最適化、軽量化、材料削減といった設計の自由度拡大が可能になります。
写真は実際にMarkforged で造形された銅フィラメントのヒートシンクです。
通常の形状よりも表面積が増加し、冷却性能の増加が見込めます。また、この形状では3Dプリンターでもサポート不要で造形や脱脂焼結時にも成功しやすい形状となっています。

販売終了レトロパーツ作成
古い設備や製品では、すでにメーカーが部品供給を終了している「レトロパーツ」が問題になることがあります。従来は高コストでの特注製作や代替設計が必要でしたが、3DスキャンとFFF/MEX方式を組み合わせれば、必要な強度・耐久性を備えた代替部品を製造可能です。これにより設備の延命が可能になり、更新コストを抑えながら安定稼働を維持できます。
この写真の元記事では、BASF Ultrafuse 17-4PH フィラメントを用いて、製造が終了した螺旋ギヤ(helical gear)を3Dスキャナーを使ってリバースエンジニアリングで再現した事例が紹介されています。3Dスキャンで形状を取得し、焼結収縮(X,Y 約17%、Z 約22%)を補正した設計データを元に造形・脱脂・焼結を実施。完成したギヤは焼結後に相対密度94%、引張強度約712MPaを達成し、外観や寸法は完全な性能ではないものの、元部品に近いものとなりました。


金属3Dプリントで現状の課題を解決するには?
金属3Dプリントは注目されている最新技術ですが、「機材を買ってすぐに活用できる」というほど簡単ではありません。まだ発展途上の分野であり、試行錯誤や活用方法の模索が欠かせない領域です。
そのため、MIMやCIMの経験がない方が、いきなり機材を購入して使いこなすのは難しいのが現実です。専門家のアドバイスを受けながら進めることを強くおすすめします。
Seed3Dのサポート体制
Seed3Dでは、以下のように金属FFF/MEX方式の導入から活用までを一貫して支援しています。
3Dスキャナーの販売・運用サポート リバースエンジニアリングを通じたレトロパーツの再現など幅広く対応。
金属・セラミックフィラメントの販売・導入支援 Nanoe、Forward AM、Markforged MetalX など最新材料を取り扱い。
造形プロセスのノウハウ提供 3Dスキャンから金属3Dプリント用のデータ作成、造形、脱脂・焼結条件の最適化までをサポート。
研究機関・製造現場向けコンサルティング 実運用でつまずきやすいポイントを解決し、スムーズな導入を支援。
ご興味のある方は、ぜひお気軽にSeed3Dまでお問い合わせください。









